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前回はAIの「文字認識」について説明しました。しかし、人工知能の場合は文字が読めるからといって、文章が理解できるとは限りません。今回は人間と大きく異なる、人工知能の「文章理解」について、数学的な用語は使わず、やさしく解説していきます。人工知能はどうやって文章の意味を学んでいくのでしょうか?
文字が分かれば文章は読める、わけではない
日本人の多くが当たり前に文字認識や文章理解といったタスクができるのは、「教育を受けてきたこと」に尽きます。
教育が必要不可欠なのは人工知能も同じです。自然言語処理技術にも「機械学習」という教育要素が取り入れられるようになっています。ただ、この「教育によって学ぶもの」が人工知能と人間の間で異なります。
たとえば、文字を読めない人のケースを考えてみましょう。人間の場合、教育を受けておらず文字は読めない人でも、声を使った「言葉」は理解できて、相互にコミュニケーションを取れることがほとんどです。そのため、人間の場合は言葉とリンクした「文字」を学べば、個人差はあれども、文字をつなげた文章をすぐに理解できるようになります。
ところが、人工知能ではそうは行きません。
人間が「文字より先に言葉を学ぶ」一方で、人工知能は「文字を学んでから言葉を学ぶ」という教育のあり方に違いがあり、言語理解に対するアプローチが人間と人工知能で根本から異なっているのです。
文章理解による人間と人工知能のコミュニケーション
人工知能による文章理解を考える上で大切なことは「言葉を使って人工知能に何をさせるか」という点です。人間の場合は自分が楽しむために文章を読むことがありますが、人工知能が文章を読むのには必ず理由があります。
それは手書きで書かれた読みにくい文章をテキストに起こすことが目的かもしれませんし、資料を探すためかもしれませんし、質問に答えるためかもしれません。
いずれにせよ、何かしらの目的があって人工知能は文章を読みます。実のところ、それが人工知能による文章理解の実態をややこしくしています。
どういうことかと言うと、自然言語処理における文脈で「人工知能が文章を理解した」という表現がされるとき、それは「文章の意味を正しく把握した」ということを意味しません。単に「機械が文章を読んだ上で、人間が与えたタスクを成功させた」という現象を指すことがほとんどです。
たとえば、飲食店のチャットボットに「お店の予約をしたいから空いている時間を教えてくれ」と尋ねれば、すぐに時間を教えてくれますし、予約すると言えば予約を成立させてくれます。すると、感覚的には「人間の言葉を機械が理解してくれた」ように思われるかもしれませんが、実はそうではありません。
統計的なデータに基づいて「人間ならこうやって会話するだろう」という判断で会話を成立させているだけであって、文章を理解しているわけではないのです。
自然言語処理に限ったことではありませんが、人工知能は「与えられたタスクを達成する」ための参考として「文章を分析する」だけであって、人間のように「文章を読んでいる」わけではありません。単語の使われ方の「統計」と文法に関する「ルール」を組み合わせ、人間らしくしているだけです。
これは人工知能による英日翻訳(機械翻訳)でも同様です。人間の翻訳者なら、英文の意味を正しく把握して日本語でも同じ意味になるように置き換えてくれているわけですが、機械翻訳の場合は人間の翻訳を参考にしながら「統計的に人間の翻訳者ならこのように訳すだろう」という文章を作っているだけで、意味を理解して翻訳しているわけではありません。
しかし、これが間違った言葉の扱い方なのかというとそうでもありません。人間の会話を統計データに変えて「人間ならこうするだろう」という猿真似のコミュニケーションであっても、データが示すものは非常に正確です。
ただの“猿真似”でも「機械翻訳」「問合せ対応」「電話予約」「文献照会」から高度な医療分野である「診断支援」までこなせる上に、どんなに優秀でもミスや勘違いをする人間に比べれば正確に与えられたタスクをこなします。
人間と比較して「人工知能の言葉の使い方が間違っている」と考えるよりは人工知能は人間にはない「新しい言葉の使い方をしている」という捉え方をする方が実情に適っているかもしれません。
【次ページ】人工知能が意味を学ぶ2つの手法、人間の代わりが本当に務まるのか
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